私たちの脳にはたくさんの細胞がいます. まず血管の中に赤血球や白血球などの血液細胞, 血管を構成する血管内皮細胞, 平滑筋細胞や周皮細胞です. それから脳内の環境を保ち神経細胞の状態を調整するマイクログリア, アストロサイト, オリゴデンドロサイトなどのグリア細胞, そして脳の情報処理を司る神経細胞です. この神経細胞には興奮性の細胞と抑制性の細胞などがあり, 多種多様な細胞がお互いに協調して脳の活動が成り立っています.
そのなかでも, 本研究室では脳の活動を支えるミクロな血液の流れや血管から脳細胞への物質の輸送,および血液の流れによる神経機能への修飾作用に着目して, 実験(生体光イメージング・オプトジェネティクス・学習実験)と理論(画像解析・輸送シミュレーション)による両軸で研究を行っています. 脳内の神経と血管は密接に連携しており, 「神経血管連関(Neurovascular coupling)」と言います. このような研究によって, さまざまな病気になりにくい脳を作り(予防医療), また日常生活において脳の活動を簡易的にモニターするための「脳活計」(ウエアラブル生体モニタリング)の開発につながることを目指しています.
脳が活動すると脳の活動した部位で血液の流れが増加します(神経血管カップリングと言います)。脳の機能イメージングは、この活動部位での血液の流れの変化を検出することで可能になりました。一方で、神経血管カップリングの機能が障害されると、認知症を例とした脳の機能の低下が引き起こされることが問題として注目されています。
本研究室では、脳の活動時のニューロンや周辺のグリア細胞、および微小な血管や血球細胞の動きを可視化し、神経血管カップリングの本態である細胞間の物質の伝達メカニズムを明らかにする研究を行っています。
加齢に伴い認知症を例とした脳の疾患を発症するリスクが高まります.その前兆として脳の血液の流れが低下することが分かっています.脳の血流が低下すると,脳内の微小な血管が詰まり易くなり,微小な血管の数が減ると考えられます.しかし粘性項が支配的な脳微小血管,特に毛細血管における流れの抵抗や粘性の変化と認知症の発症リスクとの関係は未だよくわかっておりません.
本研究室では医学部との共同研究でオプトジェネティクスという手法を用いて,脳の微小血管の流れを操作し,微小な血液の流れの変化が脳の神経活動にどのように影響するのかを明らかにする研究を行っています.
本研究の成果は,脳の血液の流れを改善することで認知症の予防に有効となる科学的なエビデンスの創出や脳の再生医療に必要となる血行再建術の開発に役立ちます.
References:
1. Hatakeyama N, Unekawa M, Murata J, Tomita Y, Suzuki N, Nakahara J, Takuwa H, Kanno I, Matsui K, Tanaka KF, Masamoto K. Differential pial and penetrating arterial responses examined by optogenetic activation of astrocytes and neurons. J Cereb Blood Flow Metab. 2021 Apr 25:271678X211010355. doi:10.1177/0271678X211010355. Epub ahead of print. PMID: 33899558.
2. Masamoto K, Unekawa M, Watanabe T, Toriumi H, Takuwa H, Kawaguchi H, Kanno I, Matsui K, Tanaka KF, Tomita Y, Suzuki N. Unveiling astrocytic control of cerebral blood flow with optogenetics. Sci Rep. 2015 Jun 16;5:11455. doi:10.1038/srep11455. PMID: 26076820; PMCID: PMC4468581.
グリアの一種であるアストロサイトやミクログリアは、脳の障害を感知して細胞の形状が変化します。本研究室では3D顕微鏡を用いて撮像した生体脳におけるグリア細胞の大量の立体画像に対して、機械学習や深層学習の手法を用いて細胞の形状を自動で判別し、病態の識別や病態の進行の予測に向けた研究を行っています。
本研究の一部は、本学脳科学ライフサポート研究センター所属の宮脇研究室との共同研究として実施しています。
本研究室では、遺伝子組み換えの技術や画像解析の手法を用いて脳の血流を計測評価するためのさまざまな技術開発を行っております。そのなかでも臨床医学への貢献として、脳外科の手術時に撮影された脳血管1本1本の血液の流れを定量的に評価するための画像解析ソフトウエアを開発しました。現在、さらに細かい血管のネットワークや血管内の血流速分布を画像化するために研究を進めています。
脳の血流は絶えず変動しています。とくに、周期の長いゆっくりとした変動は、脳の活動状態を反映すると考えられています。そこで、脳の微少な長周期の変動を数値化し、脳の活動状態を簡易的にモニターする装置(脳活計)を考案しました。また、脳の微少な血液の流れの変動が脳の活動状態を反映することを証明するために、ニューロンやグリア近傍の血液の立体的な流れを可視化するための技術を開発しました。脳活計によって、日常生活のなかで脳の活動状態をつねに把握し、認知症や脳卒中の予防を可能にしたいと考えています。